「中国でのビジネスライフ、トラブルが心配だ。着任前にあるあるを知っておきたい」
中国赴任が決まった方は、わくわく感とともにこんな不安をお持ちなのではないでしょうか?
ビジネスにトラブルはつきものですが、それが異国の地となると、文化や習慣の違いから日本では想像もつかないような事態に発展する可能性があります。
新しい土地の慣れない環境で暮らしながら、さらにビジネスでもトラブルが起きてしまっては、心の休まる時がなくなってしまいます。そのような状況を避けるために、本稿では、現地で実際に起こったトラブル事例をご紹介するとともに、中国人と仕事を進める上でのポイントや、トラブルを未然に防ぐ方法についてお伝えしていきます。
ちなみに当社の上海にある子会社に赴任している日本人社員(30代)曰く、
「中国赴任者の第一の仕事はリスクマネジメントである」
とのこと。実際に業務を進めるうえでどんなところにリスクがあり、どんな点に気を付ければよいのか?ぜひ参考にしてください。
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目次
1. 言葉の壁によるトラブル
日本企業の中国子会社などの日系企業は、そもそも日本語が堪能なスタッフを採用する場合も多いでしょう。しかし、緻密なビジネスを共に推進していくにあたり日本語が母国語ではない相手とコミュニケーションをしていくには工夫が必要です。
まずは事例から見ていきましょう。
1-1. 言葉の壁によるトラブルの具体例
実際にビジネスを進めていく現場では、日本語検定1級レベルの方でも、スムーズな意思の疎通は難しい場合が多いようです。日本語特有の言い回しや表現はなかなか伝わりません。
例えば、「お風呂に入る」という表現を考えてみましょう。日本人なら、身体を洗って湯船につかるところまでをイメージすると思います。しかし、母国語でない人からすると、この言葉から読み取れるニュアンスは「風呂場に入る」ということだけで、付随する行為を想像するのは困難です。
・「なんでも相談して」と言ったら、たわいもない内容のメールチェックまで求められるようになってしまった。
・「資料作成を任せるよ!」と伝えたら、一生懸命資料を作り、そのままクライアントに送ってしまった。できあがった段階で一声かけて欲しかった…。
上記は、ふとした時に使う日本語のニュアンスが、相手に伝わらないトラブルの実例です。
また、通訳を介して会話をしても、言葉の壁の問題から解放されるわけではないようです。
・KPIとして発言していたつもりが、KGIとして伝わっていて、危うく目標数値が異なるところだった。通訳が内容を正確に理解していないことが原因だった。
・通訳を介して中国スタッフを叱責しなければならなかった際、通訳よりもそのスタッフが年齢も役職も上だったために、叱責の言葉のニュアンスを意図的に柔らかくしてしまい、真意が伝わらなかった。
赴任者が経営幹部や役職者の場合、専任の通訳を付ける企業もありますが、通訳を介すからこそ正しく内容が伝わらない可能性があることを忘れてはいけません。
1-2. 言葉の壁によるトラブルを未然に防ぐポイント
日本語でやり取りをする場合、相手の文化・習慣が全く異なることを留意しましょう。なるべく平易な言葉を選び、可能であれば文字にすることがポイントです。誤解があればその場で訂正でき、後で見返すことも可能なためトラブルにつながりにくくなります。
実際に、当社ライトワークスの子会社「来宜信息科技(上海)有限公司」の日本人社員は、現地スタッフとのコミュニケーションにあたり、中国版LINE「WeChat」を活用して齟齬が生じないようにしています。
具体的には、打ち合わせの前に話の概要を送り、内容を確認してもらってから会話をスタートしたり、打ち合わせ後に議事録として会話の内容を送り、認識違いがないか確認してもらうという工夫を行っています。
通訳を介す場合も、平易な言葉を使うとともに、通訳しやすいよう配慮することが重要です。中国語に限らず、通訳を活用するための工夫を調べてみたところ、以下の6つがポイントとなるようです。
・結論(伝えたいこと)を先に言う
・主語を省略しない
・長々と話をせず、一文ずつに区切る
・メモや原稿を用意する
・自分が発言した後の通訳の様子を見る(理解できているか)
・通訳が伝えた後の相手の様子を見る(正しく伝わっているか)
あまりに頻繁に区切っても何を伝えたいのかがわからなくなってしまうため、30秒を目安に訳して欲しいことをまとめ、発言するとよいでしょう。
また、ビジネス用語や業界の専門用語等については、通訳の理解度を確認しながら丁寧に説明をするようにしましょう。例え日本人であっても、専門外の話を要約して他人に伝えるのは容易なことではありません。
苦情や叱責等、通訳が伝えにくい内容の場合は、「彼・彼女(自分)が言っていると伝えてください」と、通訳の方に逃げ道を作ってあげるとよいでしょう。厳しい言葉を発するのは誰でもはばかられるものです。通訳の方の気持ちを察し、信頼関係を築くことも心掛けましょう。
2. マネジメントにおけるトラブル
日系企業に赴任する場合、現地中国人スタッフのマネジメントがメインという方も多いことでしょう。マネジメントを行う際に発生しがちなトラブルをご紹介します。
2-1. マネジメントにおけるトラブルの具体例
日本のビジネスパーソンは、メンバーシップ型雇用の下、入社後に研修を受け、ビジネスマナーや仕事の進め方について一定の教育を受けるのが普通です。しかし、この考え方はグローバルには通用しません。
・中国のビジネスパーソンにはホウレンソウの習慣がない。報告があってもすべて事後だったり、クレームに発展してから相談に来るということがままある。
・こちらからすると些細なことでも、泣き出してしまったり、人格否定にとらえられてしまうことがあった。
・怒りを感じたので黙っていたら、「無言=了承」ととらえられ立ち去られてしまった。
・議論をしていると、論点がどんどんずれていき、主張も変わっていく。こちらが伝えたくて散々苦労したことを、最終段階で相手から「自分の意見は初めからそれだった」と言われて愕然としたことがある。
日本での一般教養、一般常識は、あくまでも日本国内で通用する「普通」です。お隣中国でも、日本式のマネジメントが当たり前に通用するとは思わない方がよいでしょう。
クライアントを巻き込んでしまった場合は、企業同士の関係に支障が出ないように最善を尽くさなければなりません。先方が同じ中国人である場合は寛容ですが、日本人の場合はフォローコミュニケーションで一日が終わってしまったということもあるようです。
2-2. マネジメントにおけるトラブルを未然に防ぐポイント
曖昧な指示出しをせずに、具体的に伝えることが重要です。例えば、書類作成を頼む場合は、「資料作成の目的」「いつまでにどこまで仕上げる」「●ページまで終わったら必ず声をかける」など、お互いが共通の認識を持てるように意識します。
ホウレンソウの重要性は、一度説明するだけでは流れてしまうので、OJTの中で何度も根気よく説明するようにしましょう。
また、面子文化が根強い中国では、人前で叱ることは面子を潰すことになるのでご法度です。定期的に1on1ミーティングを行うなどし、個室で丁寧に伝えましょう。
どうしても人前で発言しなければならない場合は、誤解のないように分かりやすい言葉を選び、なるべく否定的な単語を使わないようにします。
1対1で注意をする時も、「あなたの成長を促すための貴重な機会なので、遠慮なく話し合いましょう」と、相手のためを思っていることをきちんと伝えた方がよいでしょう。また、中国では、発言しない場合は意見がないとみなされてしまうため、沈黙の表現は通用しません。
しかし、中国人から見ると、日本人の仕事の進め方はスピード感に欠けると思われることもあるようです。意思決定の速さなど、見習いたいポイントは取り入れつつ、日本と中国のよいところを昇華させていければ、中国における日系企業ならではの強みとなりうるのではないでしょうか。
3. ビジネス感覚の違いによるトラブル
ここまでは、日常業務の中で起こりうるトラブルについて解説してきました。ここでは、ビジネス感覚の違いによって労使間や企業間で起こりうるトラブルをご紹介します。
3-1. ビジネス感覚の違いによるトラブルの具体例
日本の25倍以上の面積を誇り、56の民族からなる中国は、出身地によってバックグラウンドが全く異なるためビジネス感覚も一概に言えませんが、日系企業で実際にあったトラブル例を見てみましょう。
・労働争議
組織よりも、個人としての意識が強い中国では、待遇に納得できないことがあるとすぐに好条件の職場へ転職をするか、比較的躊躇なく会社を訴えるという手段を取ることもあるようです。よくある事例は下記の2つです。
・減給に納得がいかない
・異動に納得がいかない
いずれも企業が勝訴するか、和解となることが多いようです。
・契約関連
商習慣や法制度・制度運用が異なるため、契約書の書き方には注意が必要です。
・現地企業のフォーマットはとてもアバウトで、クライアント企業から定義されていない業務をどんどん依頼されてしまうリスクがある。
・想定内のことは契約書にすべて記載したが、想定外のことをたくさん要求されてしまい対応に苦慮した。
・善意で特別に引き受けたことが、次回以降当たり前のこととしてとらえられてしまった。
契約書に書いていないことは、「何もしなくてもよい」「何をしてもよい」ととらえられてしまう可能性もあるようです。
・ハラスメント関連
モラルやマナーの価値観が変化期にある中国では、ハラスメント関連の問題も起きやすいようです。
・プライベートのつもりで部下と付き合ったら、「(付き合ったのに)昇給がない」と訴えられた。
・日本に家庭があるのに軽い気持ちでお付き合いを始めてしまい、最終的に「青春損害賠償」を要求され、会社も解雇となり家庭が崩壊してしまった。
・接待によく使われるカラオケ店(KTV)の女性スタッフと付き合っていた日本人駐在員が、帰国する際に別れ話がもつれ会社に乗り込まれ騒動になった。
その他、ビジネス感覚の違いによるよくあるトラブルとして、金銭トラブルも挙げられます。「取引先に賄賂を要求された」「納品したのに支払いがない」といった事例も多いようです。また、従業員同士で給与を見せ合うことに抵抗がない中国では、「同じ仕事をしているのに●●さんの方が賃金が高いのは納得いかない」と直談判されることもあるようです。
3-2. ビジネス感覚の違いによるトラブルを未然に防ぐポイント
ビジネス感覚の違いとは、「文化的バックグラウンドの違い」、すなわち「価値観や行動規範などに基づく評価基準が異なる」ということです。トラブルを未然に防ぐためには、日本の常識にとらわれず、中国の常識を理解していくことが重要です。
人事に関しては、適切な評価をした上での減給や異動ということを伝え、本人が納得できる説明をする必要があります。客観的に判断できる数値や基準を提示することも有効でしょう。
契約書はフォーマット通りでなく、1件1件取引マニュアルのように具体的な規定を設け、追加依頼は別契約を結ぶなど、事前に明確なルールを決めた上で取引をスタートさせましょう。
ハラスメントに関しては、受け手がどのように感じるかが一番のポイントです。「そんなつもりではなかった」「軽い気持ちだった」は通用しません。中国へ赴任予定の方は、トラブルに巻き込まれないように節度ある行動を心がけた方がよいでしょう。
金銭に関しては、有事の際、会社としてどのような対応をしていくか、事前に確認するようにしましょう。給与体系も、同じ仕事でも持っている資格・スキルや経験に応じて給与が異なるということを、具体的な金額とともに一覧表などにまとめておくと説明を求められた際にスムーズです。
以上、中国でのビジネスで実際に起こったトラブルと、中国人と仕事を進める上でのポイントを解説しました。トラブルを回避する一番の近道は、文化的バックグラウンドの違いを認識して、自分の「当たり前」を「当たり前」と思わず、相手を深く理解するように努めることです。
相手が日本語を話せたとしても、積極的に中国語を勉強し、拙くても中国語での会話を心がけるなど、歩み寄りの姿勢を見せることが、円滑にビジネスを進めるポイントとなりうるのではないでしょうか。
4. まとめ
本稿では、中国でビジネスを進めるにあたり、現地で実際に起こったトラブル事例をご紹介するとともに、中国人と仕事を進める上でのポイントや、トラブルを未然に防ぐ方法についてお伝えしました。
言葉の壁によるトラブルの具体例と未然に防ぐポイントは以下の通りです。
【具体例】
- 「なんでも相談して」と言ったら、たわいもない内容のメールチェックまで求められるようになってしまった。
- 「資料作成を任せるよ!」と伝えたら、一生懸命資料を作り、そのままクライアントに送ってしまった。
- KPIとして発言していたつもりが、KGIとして伝わっていて、危うく目標数値が異なるところだった。通訳が内容を正確に理解していないことが原因だった。
- 通訳を介して中国スタッフを叱責しなければならなかった際、通訳よりもそのスタッフが年齢も役職も上だったために、叱責の言葉のニュアンスを意図的に柔らかくしてしまい、真意が伝わらなかった。
【ポイント】
相手の文化・習慣が全く異なることを留意しましょう。なるべく平易な言葉を選び、可能であれば文字にすることがポイントです。中国で普及している中国版LINE「WeChat」を使ったやり取りもおすすめです。
マネジメントにおけるトラブルの具体例と未然に防ぐポイントは以下の通りです。
【具体例】
- 中国のビジネスパーソンにはホウレンソウの習慣がない。報告があってもすべて事後だったり、クレームに発展してから相談に来るということがままある。
- こちらからすると些細なことでも、泣き出してしまったり、人格否定にとらえられてしまうことがあった。
- 怒りを感じたので黙っていたら、「無言=了承」ととらえられ立ち去られてしまった。
- 議論をしていると、論点がどんどんずれていき、主張も変わっていく。こちらが伝えたくて散々苦労したことを、最終段階で相手から「自分の意見は初めからそれだった」と言われて愕然としたことがある。
【ポイント】
曖昧な指示出しをせずに、具体的に伝えることが重要です。一度説明するだけでは流れてしまうので、OJTの中で何度も根気よく説明するようにしましょう。また、面子文化が根強い中国では、人前で叱ることは面子を潰すことになるのでご法度です。定期的に1on1ミーティングを行うなどし、個室で丁寧に伝えましょう。
ビジネス感覚の違いによるトラブルの具体例と未然に防ぐポイントは以下の通りです。
【具体例】
- 労働争議が多い。特に多いのは「減給に納得がいかない」「異動に納得がいかない」の2つ。
- 現地企業の契約書フォーマットはとてもアバウトで、クライアント企業から定義されていない業務をどんどん依頼されてしまうリスクがある。
- プライベートのつもりで部下と付き合ったら、「(付き合ったのに)昇給がない」と訴えられた。
- 接待によく使われるカラオケ店(KTV)の女性スタッフと付き合っていた日本人駐在員が、帰国する際に別れ話がもつれ会社に乗り込まれ騒動になった。
他にも、賄賂の要求や納品後の未入金など、金銭トラブルも頻発しているようです。
【ポイント】
ビジネス感覚の違いとは、「文化的バックグラウンドの違い」、すなわち「価値観や行動規範などに基づく評価基準が異なる」ということです。トラブルを未然に防ぐためには、日本の常識にとらわれず、中国の常識を理解していくことが重要です。
文化や習慣の異なる相手を尊重し、相手が日本語を話せたとしても、積極的に中国語を勉強し、拙くても中国語での会話を心がけるなど、歩み寄りの姿勢を見せることが、円滑にビジネスを進めるポイントとなりうるのではないでしょうか。
- 高田 拓(2010)『今、あなたが中国行きを命じられたら~失敗事例から学ぶ中国ビジネス~』ビーケイシー.
- 範 雲涛(2008)『中国ビジネスとんでも事件簿 商文化の違いに迫る』PHP研究所.